大判例

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東京高等裁判所 昭和27年(う)1420号 判決

弁護人の控訴趣意中、原審の訴訟手続に法令の違反があることを主張する点について。

所論逮捕状請求書(昭和二十五年四月十日附のもの)には被疑事実の要旨として、被疑者(本件被告人)は松崎某外六名と共謀の上、昭和二十三年二月五日頃の午後九時頃、神田須田町一丁目五番地社交喫茶「うるわし」において、同店の支配人北尾辰次郎から金一万五千円を喝取した旨の記載があり、又所論勾留状(同月二十二日附のもの)にも、犯罪事実の要旨として、右事実と同様の記載が存するにも拘らず、昭和二十五年五月一日附本件起訴状には、被告人に対する公訴事実として、右犯罪事実の記載がなく、次の二つの犯罪事実、

即ち、被告人は

第一、滝島秀雄、松崎実、菊地某、山口某等と共謀の上、昭和二十三年一月六日頃、東京都千代田区神田司町二丁目一番地古川三佐男方において、洋服生地商赤尾正市の代理人たる同人を通じ、赤尾正市から現金二万五千円を喝取し、

第二、シヤイドーラ、ザイノウラ等が社交喫茶「うるわし」を恐喝したことが警察に探知されるや、右シヤイドーラの逃亡費用ねん出のため、同年二月中旬頃、シヤイドーラ、ザイノウラ、仲山謹一、奥沢明、田代喜久夫、森田実、山口某等と共謀の上同区神田淡路町一丁目十七番地洋服生地商山口勲方において、同人母きみから国防色生地二巻時価三万円位のものを喝取し(この事実に対しては、昭和二十六年十一月二十一日附検察官の予備的訴因追加申立書に基き、予備的に詐欺の事実が追加された)

たとの各事実の記載があるだけであることは、いずれも、所論のとおりである。そして、所論被告人に対する第一回及び第二回各供述調書(被告人に対する昭和二十五年四月二十一日附司法警察員の第一回供述調書及び同月二十八日附司法警察員の第二回供述調書に各該当)が、本件起訴前、被告人が前記勾留状によつて勾留されている間に作成されたこと及び原審が右各供述調書を他の証拠と総合して原判示事実を認定したことは、記録及び原判決の記載に徴して明らかであるが、原審がかかる各供述調書を証拠として原判示事実を認定したことをもつて直ちに違法の措置と断ずることはできない。

即ち、記録に徴すると、原審相被告人松崎実及びシヤイドーラ、ザイノウラ等が森田実及び亀井某と共謀の上、東京都千代田区神田須田町一丁目五番地所在社交喫茶「うるわし」において、同店支配人北尾辰次郎から現金一万五千円を恐喝した事件につき、被告人が連坐している嫌疑があつたため、搜査当局においては、被告人を右事件の被疑者として、その身柄を留置の上、取り調べる必要があつた結果、昭和二十五年四月十日右被疑事件につき東京簡易裁判所裁判官に対し、所論逮捕状請求書による逮捕状の発布方を請求し、被告人は同裁判所裁判官の発布した逮捕状により同月二十一日逮捕され、ついで、右事件につき、東京地方裁判所裁判官多賀谷雄一が発布した勾留状により、代用監獄たる警視庁管下警察署留置場に勾留されるに至つたこと及び搜査当局においては、右逮捕の当日たる同月二十一日前記被疑事件について被告人に対する取調を開始したところ、被告人は右事件に関係していることを否認したので、その取調の結果について右第一回供述調書を作成し更に搜査を遂げた上、同月二十八日併せて起訴状記載の被告人に対する前記第一の赤尾正市から現金二万五千円を恐喝した被疑事件の取調を行い、その取調の結果について、右第二回供述調書を作成した事実を認めることができる。そして以上の搜査の経過と起訴状の記載とを総合して考えてみると、検察官は司法警察員から送致を受けた被告人に対する被疑事件中、起訴状記載の各事実に関するものは、その嫌疑が充分であるが、前記逮捕状請求書記載の被疑事実についてはさしあたり未だ公訴を提起し、且つ、これを維持するに足る充分な資料が整つていないものと思料した結果、これを起訴しなかつたものと考えるのが相当である。してみれば、前記被告人を逮捕し、且つこれを勾留した措置は、すこしも違法のものではなく、又ある事件で逮捕勾留中被疑者を当該事件及びその関連事件について取り調べることは法規の禁ずるところではないから、右の如く検察官において、被告人が前記「うるわし」の支配人北尾辰次郎から金一万五千円を恐喝したとの被疑事実を起訴しなかつたからといつて、これがため所論の各供述調書が直ちに無効のものと化する道理はないのである。されば原審が所論の各供述調書を原判決挙示のその他の証拠と総合して所論原判示事実を認定したことについては所論の違法はなく、又本件被告人に対する勾留中、起訴後の部分については、所論の違法があるけれども、かかる訴訟手続の違法は、未だもつて、判決に影響を及ぼすものとはいい難い。

論旨は理由がない。

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